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「黒白二鼠図」絵解き

2025年03月26日 小山 興 円

『仏説譬喩経(ぶっせつひゆきょう)』に説かれるお釈迦さまの喩たとえを画にしたものが、この「黒白二鼠図(こくびゃくにそず)」です。

一人の旅人が荒野を歩いていると、突如後ろから悪ゾウに襲われます。旅人は必死に逃げます。命からがら古井戸に垂れた木の根につかまって難を逃れます。ホッとしたのも束の間、見上げると、今つかまっている根を黒と白の2匹の鼠が齧かじっているではありませんか。
周りを見渡すと、4匹の毒ヘビが四辺にいて、旅人に襲い掛かろうとしています。下を見れば恐ろしい龍が、旅人が落ちてくるのを今か今かと待ち構えています。
さらにいつの間にか、つかまっている木そのものが野火で燃え盛っているのがわかりました。
このままでは、か細い根はちぎれて、龍や蛇に食べられてしまいます。旅人は恐怖に身を震わせました。
恐怖で大声をあげようとしたその時です。旅人の口に、木の根元にあるハチの巣から甘い甘い蜜がポタリポタリと五滴、口のなかに落ちてきたのです。その何とも言えない蜜の甘さに心が奪われ、もっと甘い蜜をなめたいと、今にも切れそうな木の根をゆさゆさと揺さぶっていたのです。

こう語り終えられたお釈迦さまは静かにお尋ねになりました。「さて、この旅人とは一体誰の事でしょうか?」―

「荒野」とは私たちの永い迷い( 無む みょ う 明)「旅人」とは凡夫、つまり私。「悪ゾウ」とは無常、「井戸」は人生そのもの、「木の根」は命。
「黒白の2匹の鼠」は夜と昼(時間)。「4匹の蛇」は私を構成する要素、地・水・火・風の四大。「龍」は死、「野火」は老病。「五滴の蜜」は眼(色)・耳(声)・鼻(香)・舌(味)・身(触)の五欲を表しています。
まさに今が臨終のはずなのに、世間の楽に夢中になる愚かさを鋭く説いた喩たとえではありますが、この図は立体的に見る画だと気づかされます。私たちの目から見れば、この旅人(私)はただの愚か者です。しかし、阿弥陀さまの目は深く凡夫の罪業を見抜き、だからこそ放っておけないと「南無阿弥陀仏」となってすでに私に届いているのです。

黒白二鼠図(本證寺所蔵)

黒白二鼠図(本證寺所蔵)

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